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大阪地方裁判所 昭和41年(行ウ)29号 判決 1968年5月20日

兵庫県津名郡津名町生穂一四四三の一

原告

鍵岡重明

右訴訟代理人弁護士

牛野藤吉

兵庫県州本市

被告

州本税務署長

岡下昌浩

右指定代理人検事

伴喬之輔

右同

法務事務官 西村省三

右同

大蔵事務官 河合昭五

右同

大蔵事務官 本野昌樹

右当事者間の昭和四一年(行ウ)第二九号所得税確定申告更正決定取消請求事件について、当裁判所は次のとおり判決する。

主文

本件訴を却下する。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

当事者双方の申立

(原告)

被告税務署長が、昭和三九年一〇月三一日付で、原告の昭和三七年度分の所得税につきなした更正決定ならびに加算税賦課決定はこれを取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との各判決を求めた。

原告の請求原因

一、原告は不動産賃貸業を営むものであるが、昭和三八年三月一日、被告に対し、原告の昭和三七年分の所得税につき、その所得金額を金一、三八六、三〇〇円所得税額を金一二六、六四〇円として確定申告したところ、被告は、昭和三九年一〇月三一日付を以って、右所得金額を金四、八一五、二九九円所得税額を金一、一二三、九四〇円とする更正決定ならびに過少申告加算税(税額金五六、一五〇円)の賦課決定をなし、その頃原告に対してその旨を通知した。

二、そこで原告より被告に対し、昭和三九年一一月二八日右処分について異議の申立をしたところ、昭和四〇年三月二八日これを棄却する旨の決定があったので、昭和四〇年四月二七日大阪国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四〇年八月二五日原処分のうち課税所得金額金四、二四八、五〇〇円、所得税額金一、〇八三、九四〇円(過少申告加算税金五四、一五〇円)を超える部分を取消す旨の裁決がなされた。

三、しかし、原告の昭和三七年度分の所得金額は申告額どおりであるから、右更正処分ならびに無申告加算税には原告の当該年度の所得を過大に認定した違法がある。

被告の答弁ならびに主張

(答弁)

請求原因一、二項の事実は全て認める、三項は争う。

(被告の主張)

原告は昭和三七年一一月二六日株式会社富士模型を買受人として、

大阪市東区東雲町三丁目二五番地の二、宅地七〇坪

右換地

大阪市東区森ノ宮工区九〇ブロック四番、宅地四八坪一三

を、金六、四九七、五五〇で売渡す契約をなし同日手付金一、〇〇〇、〇〇〇円を領収した。

被告は原告の昭和三七年度分所得税確定申告に右資産の譲渡所得に脱漏しているのを知ったので、他の三件(別表2参照)の売買を含め更正した。課税経過ならびに譲渡所得の計算根拠は別表1、2のとおりである。(医療費控除八五、五九二円は被告主張の譲渡所得があるから、認められない。)

原告の答弁ならびに主張

確定申告、更正決定、裁決の内容が別表1記載のとおりであることは認める。別表2については、大阪市東区東雲町三丁目二九五の二の関係についてのみ争う。その余は全て認める。

被告主張の売買契約をなしたことは認めるが、右契約の履行期は昭和三八年一月一〇日であった。そして、同日右所有権移転登記手続をなし、残代金の授受等契約の履行を完了しだのである。従って、本件譲渡所得の課税年度は当然昭和三八年であって、昭和三七年ではありえない。

(医療費が八五、五九二円であることは認める。もし被告主張の譲渡所得が存在するならば、医療費控除が認められないことは争わない。)

被告の再更正処分の主張

被告はその後判明した事実にもとずいて、昭和四三年二月一九日原告の昭和三七年分所得税につき、次のとおり再更正および重加算税の賦課決定を行い、同日原告に通知した。

不動産所得 三一一、四三六円

給与所得 一、二四〇、〇〇〇円

譲渡所得 三、七五三、六三八円

雑所得 一七八、〇〇〇円

総所得金額 五、四八三、〇七四円

所得控除 三九二、二一六円

課税総所得金額 五、〇九〇、〇〇〇円

所得税額 一、七四六、〇〇〇円

税額控除 六、〇〇〇円

差引税額 一、五八九、二〇〇円

重加算税 一一三、四〇〇円

再更正処分についての原告の答弁

被告主張の日時に被告主張の如き再更正処分がなされ原告に通知されたことは認める。なお同処分に対しては目下不服申立(異議申立)中である。

(証拠関係)

原告訴訟代理人は甲第一、二号証、第三号証の一、二、第四ないし第九号証を提出し、乙第一号証の原本の存在と成立ならびにその写であることは不知、乙第二号証の成立は認めると述べた。

被告指定代理人は、乙第一(写)、二号証を提出し、甲号各証の成立を全て認めた。

理由

請求原因一、二の事実および被告が昭和四三年二月一九日付で原告の昭和三七年分の所得について被告主張の如き再更正処分をなし、同日原告に通知したことにいずれも当事者間に争のないところである。そして、原告は右再更正処分に対して不服申立(異議申立)中であることは自認する。(従って再更正処分に対する救済の方法は可能である。)

ところで、本件において原告は、被告が昭和三九年一〇月三一日付をもってなした原告の昭和三七年度の所得税に関する更正処分(第一次更正処分、課税総所得金額は金四、三三七、四〇〇円であったが裁決により金四、二四八、五〇〇円を超える部分は取消された)の取消を求めているものである。しかるに被告は昭和四三年二月一九日付で、原告の当該年度の所得税について再更正処分(第二次更正処分)をなしたのであるから、第一次更正処分(昭和三九年一〇月三一日付)も、第二次更正処分(昭和四三年二月一九日付)も、いずれも独立の行政処分であって、第一次の更正処分は第二次の更正処分によって取消されたものと解せざるをえないところである。

そうすると、第一次更正処分の取消を求める本件訴は、第二次更正処分のなされた時以降、その利益を失うにいたったものというべきである。

以上のとおりであるから、原告の本件訴はいずれも訴の利益がないものとして却下すべきものとする。

訴訟費用の負担について考えるに、本訴提起当時は未だ第二次更正処分はなされておらず、従って第一次更正処分の取消を求める本件訴も適法であったところ、前記のとおり、本訴中に、第二次更正処分がなされたため、本件訴は却下されるに至ったものであるから、特段の事情のないかぎり、訴訟費用は被告に負担せしめるべきものとし、民事訴訟法九〇条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石崎甚八 裁判官 知識融治 裁判官 光辻敦馬)

別表1

<省略>

(註) 医療費控除額(85,592円)は更正又は裁決の譲渡所得がある場合は控除は認められない。

別表2

<省略>

譲渡所得

<省略>

合計譲渡差益 特別控除

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